King of the beast❶

 

 

     ❶
 
 
“獣の王”の予言から以後、過激になりつつあった“教派“の中で、リリーは外見上、従順な信徒として見られていた。
 元から傘下の修道院にいたため、命じられるままに苛烈な闘いに身を投じていく様を、信仰のためなら死をも恐れない狂信者と見られていたのだ。だから思想改造も洗脳も施されることなく、他の者が次々と心や体を壊していく中、リリーだけは変わらなかった。
 しかしそれはなんでもない。ただ幼き日に、実の両親に殺されかけた日以来、彼女の心がずっと壊れっぱなしだっただけだった。
 戦闘狂でバトルマニア。
 命を奪い合うことでだけ、自分の命を実感できる、壊れた魂。
 
 そんなリリーだからこそ、2年前、彼女以外のほとんど全ての“聖刃“が”教派“を離反したときでさえ、彼女は狂おしいほどにいつも通りだった。
 
 いつもどおりに闘い。
 いつもどおりに殺し。
 いつもどおりに熱狂しただけだった。
 今も昔も、闘い続ければいずれ出逢うだろう“獣の王”に、あて馬としての自分が殺されるその日まで、一貫したリリーにブレはない。
 相手が強かろうが弱かろうが、正しかろうが間違っていようが、好きだろうが嫌いだろうが、優しかろうが厳しかろうが、愛していようが憎んでいようが、恩があろうが義理があろうが一切合財関係ない。
 なぜならリリーにとって人生とはただ闘って、ただ殺して、ただ死ぬだけのことでしかないのだから。
 だから彼女は、どんな時でも嗤っている。
 
 いつだってどこだって、それが彼女が死ぬときだって―――
 
 
 
 

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