❶
最強とはなにか。
それは負けないことだ。
けれど世界には必ず天敵がいて、万全を期そうが万一の不幸が敗北をもたらす。
それでも最強がいると仮定するなら、それは未来を予見する者だろう。相手の特性を事前に見抜き、万分の一の不慮の事故すら掌の上、敗北と言う可能性を負ける前に零にまで引き下げることができるのなら、それが最強だ。
誰もがそうだと信じ、信仰していた。
だから、5年前。予言者が死んだ日、その人物を中心としていた組織は、根底から揺るがされることになった。
自殺だった。
最強のはずの、絶対者の死。
それが意味するのは、絶対不可避の絶望だ。
誰もがすぐさま思い至る、いまや遺言となった最後に残された予言。
それは終末を示すものだった。
予見されたのは“獣の王”の出現―――
それは“獣の数字(666)”ともされるもの。
それは黙示録の獣。
それは終末の闇。
それは赤き竜。
その凶報が意味するのは、現代の終焉と、異なる現実の創世に他ならない。
拒むのならば、戦うしかない。
森を開き、人が時代を築いてきたように、死地に血路を開くしかない。
この日より、獣と人の狂想曲(カプリッチオ)は始まっていた。
そして今この時も、曲はいずれ来るだろうその終章を待っている。